2025年7月7日 世界経済レポート:トランプ関税が市場を揺るがす中、ドル独歩高、暗号資産は逆行高

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I. 本日の市場概況:地政学リスクが支配した一日

2025年7月7日の週明け、世界の金融市場は地政学的な緊張によってほぼ完全に支配される展開となりました。市場の動向を決定づけたのは、米国のトランプ大統領が打ち出す新たな関税措置への強い警戒感です。特に、中国やロシアなどが参加するBRICS首脳会議の「反米政策」に同調するいかなる国に対しても10%の追加関税を課すという威嚇的な発言は、市場に大きな衝撃を与えました 。  

この発言は、典型的でありながらも現代的な特徴を持つ「リスクオフ」ムードを醸成し、資産クラス間で顕著なパフォーマンスの乖離を生み出しました。世界的な貿易戦争への懸念から株式市場は軒並み下落。その一方で、安全資産への逃避先として米ドルが全面高となり、為替市場ではドル独歩高の様相を呈しました。

しかし、この日の市場で最も注目すべきは、伝統的なリスク資産とは全く異なる動きを見せた暗号資産市場でした。ビットコインをはじめとする主要な暗号資産は、既存の金融システムや法定通貨を巡る不安定性へのヘッジ手段としてその価値を再認識され、逆行高を記録しました。伝統的な安全資産である金(ゴールド)は、地政学リスクの高まりという追い風を受けながらも、米ドルの圧倒的な強さという逆風にさらされ、上値の重い展開を強いられました。

以下に、この複雑な市場環境を反映した主要金融市場の動向を要約します。

資産クラス主要指数・通貨ペア終値・レート日中変動主な変動要因
株式日経平均株価39,587円-223円 (-0.56%)米国の関税措置への不透明感、輸出関連セクターの弱含み
為替ドル/円 (USD/JPY)145.40-145.50円台約+1.00円 (+0.70%)安全資産としての米ドルへの資金逃避、トランプ大統領のBRICS関連発言
為替ユーロ/ドル (EUR/USD)1.1725ドル台約-0.0053 (-0.45%)全面的な米ドル高の進行
暗号資産ビットコイン (Bitcoin)約109,000ドル+1.1%マクロ経済不安に対するヘッジ需要、米利下げ期待
コモディティ金 (Gold)16,874円/g-47円 (-0.28%)米ドル急騰による圧力が安全資産需要を上回る

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II. 株式市場:関税への警戒感から全面安

週明けの株式市場は、米国の関税政策を巡る不透明感に覆われ、世界的にリスク回避の売りが優勢となりました。特に、輸出依存度の高い日本市場では警戒感が強く、アジアから欧州へと不安が伝播する一日でした。

A. 東京・アジア市場の動向

7日の東京株式市場は、終日軟調な展開を強いられました。日経平均株価は前週末比223円安の39,587円で取引を終え、週の始まりをマイナスで飾りました 。市場は朝方の取引開始直後から売りが先行し 、米国から発せられる関税に関する報道に神経質に反応しました 。  

特に下げが目立ったのは、米国の関税措置の直接的な影響を受けやすい輸出関連セクターです。とりわけ自動車産業への影響が懸念され、トヨタ自動車やホンダといった主要企業の株価は弱含みで推移しました 。この背景には、石破首相が米国との関税交渉において自動車関税ゼロを求める妥協しない姿勢を示していることがあり、交渉が難航し最終的に高関税が課されるリスクが意識されました 。  

このリスク回避の動きは他のアジア市場にも波及しました。香港のハンセン指数は0.36%安で寄り付いた後 、終値でも0.12%安と下落しました 。一方で、中国本土の上海総合指数は、アジア市場の全般的な軟調地合いに反して小幅ながら0.02%高と、底堅さを見せて取引を終えました 。  

B. 欧州市場の反応と米株先物

欧州市場は、アジア市場の悲観的なムードを引き継ぐ形で取引を開始しました。先週の段階ですでにストックス欧州600指数が下落基調にあったこともあり 、市場参加者は慎重な姿勢を崩しませんでした。取引開始時点では、英FTSE100が0.1%安、独DAXが0.2%高とまちまちな動きを見せましたが 、市場の根底には米国の通商政策に対する根強い不透明感が横たわっていました 。  

しかし、ロンドン時間の午後に入ると、欧州株は底堅さを見せ始め、関税への警戒感は限定的であるとの見方も浮上しました 。これは、アジア市場の直接的な恐怖感とは対照的な反応でした。  

一方で、世界的なリスクセンチメントをより明確に反映していたのが米国の株価指数先物です。アジア、欧州の取引時間を通じて、ダウ平均先物は120ドル以上下落し、市場関係者はその理由としてトランプ大統領の関税に関する発言を明確に指摘していました 。これは、米国市場の休場明けに待ち受けるであろう波乱を予感させる動きでした。  

C. 分析とインサイト

この日の株式市場の動きは、単なるリスクオフでは片付けられない、地政学的なニュアンスを含んだものでした。アジア市場と欧州市場で見られた反応の差は、市場が各地域の政治的・経済的状況をいかに繊細に織り込んでいるかを示唆しています。

第一に、欧州市場がアジア市場ほどのパニックに陥らなかった背景には、米国との交渉の進展に対する期待感があります。報道によれば、EUは米国との間で交渉を続けており、「進展」が見られるとの観測が流れています。7月9日という交渉期限までに合意に至るという目標も共有されており 、市場はEUが最終的に関税の適用除外や有利な条件を勝ち取る可能性を織り込み始めています。これに対し、日本は自動車関税ゼロという「妥協なき」姿勢を鮮明にしており 、これがかえって交渉決裂のリスクを高めていると市場に受け止められている可能性があります。つまり、市場の反応の差は、各国の外交的立ち位置と交渉戦術の違いを反映した、合理的な判断の結果と言えるでしょう。  

第二に、中国本土市場が見せた底堅さは、世界経済の構造変化を象徴する重要なシグナルです。歴史的に米国の関税の主要な標的であった中国が、今回の脅威に対して安定を保ったのには複数の要因が考えられます。長年にわたる貿易摩擦の結果、すでにある程度のリスクが株価に織り込まれていること、政府主導の景気刺激策や内需の拡大によって経済が輸出への依存度を低下させていること、そして何よりも政府による市場安定化能力への信頼感が挙げられます。この現象は、中国経済が西側主導の市場センチメントから徐々に「デカップリング(分離)」し、BRICSという枠組みの下で独自の経済圏を形成しつつあるという大きな物語を補強するものです 。  

III. 外国為替市場:トランプ発言でドルが145円台へ急騰

外国為替市場は、この日の世界的なリスクセンチメントの変化を最も劇的に映し出す舞台となりました。安全資産とされる円とドルの間で激しい綱引きが見られましたが、最終的には米ドルが圧倒的な強さを見せつけ、ドル/円相場は重要な心理的節目を突破しました。

A. ドル円のダイナミクス:劇的な日中反転

ドル/円相場は、一日のうちに全く異なる顔を見せる、非常にボラティリティの高い展開となりました。週明けの東京市場序盤では、リスク回避の円買いが先行し、ドル/円は一時144円22銭まで下落しました 。この動きには、日本の政局の不透明感が財政悪化懸念につながるとの見方も一部影響していました 。  

しかし、この流れは東京時間の午後にかけて完全に反転します。引き金となったのは、トランプ大統領がBRICSに同調する国々に対して追加関税を課すと明言したことでした 。この発言が伝わると、市場の雰囲気は一変。世界中の投資家がリスク回避のために米ドルを買い求める動きが津波のように押し寄せました。  

このドル買いの勢いは凄まじく、ドル/円はまず心理的節目である145円00銭を突破 。その後も上昇は止まらず、ロンドン時間には一時145円29銭 、さらには145円51銭という高値を更新しました 。ロンドン市場の終盤には145円40銭近辺で推移し、ドル高の流れを決定づけました。  

B. ユーロ、BRICS通貨の動向:ドル独歩高の証明

この日のドル高は、単に円が売られた結果ではなく、世界的なドル買いによってもたらされたものであることが他の通貨ペアの動きからも明らかでした。ユーロ/ドル相場は、週初に1.1780ドル台で取引されていましたが、ドル高の波に押されて一貫して下落し、1.1730ドルを割り込む水準まで値を下げました 。  

さらに、トランプ大統領の脅威が直接向けられたBRICS諸国の通貨は、当然ながら強い下落圧力にさらされました。市場参加者は、米国の通商政策の標的になりうると見なされた国々の通貨から資金を引き揚げ、安全な避難先として米ドルに殺到しました 。この動きが、ドルの全面高をさらに加速させる要因となりました。  

C. 分析と今後の展望

この日の為替市場の動きは、「なぜリスクオフ局面でドルがこれほどまでに買われるのか」という問いに対する教科書的な答えを示しています。通常、リスク回避局面では円もドルと並んで安全資産と見なされますが、この日はドルが圧勝しました。

その根本的な理由は、今回のリスクの性質にあります。脅威の源泉は米国の政策であり、その影響は世界全体に及ぶシステミックなものです。このような世界規模の金融ストレスが発生した場合、市場参加者が何よりも優先するのは「流動性の確保」です。世界の基軸通貨であり、貿易決済や国際的な債務の大半が米ドル建てであるという事実が、ここで決定的な意味を持ちます。世界中がパニックに陥り、誰もが手元資金を確保しようとすると、必然的に米ドルへの需要が爆発的に高まる「ドル・ショートスクイーズ」現象が発生するのです。

ではなぜ円は買われなかったのでしょうか。日本は世界最大の債権国であり、円も確かに安全資産です。しかし、今回の脅威は日本の基幹産業である自動車産業を直接の標的としており 、日本経済自体がリスクの最前線に立たされています。さらに、世界的なパニックの規模が、地域的な安全資産への逃避という動きを凌駕し、究極の流動性供給源である米ドルへと資金を集中させたのです。  

結論として、この日のドル高は、米国経済が好調だからではなく、世界金融システムの中心に米国が存在し、世界的な危機において唯一無二の避難場所として機能するために生じた「リスクオフのドル高」でした。市場は世界的な不安定化を織り込み始めており、そのような時代においては「キャッシュ(米ドル)こそが王様」であることを改めて証明した一日でした。

IV. 暗号資産市場:マクロ不安を追い風に異例の上昇

株式市場が地政学リスクにおびえ、ドルが安全資産として買われる中、暗号資産市場は全く異なる景色を描き出しました。伝統的な金融資産が下落するのを尻目に、ビットコインをはじめとする主要な暗号資産は力強い上昇を見せ、市場におけるその独自の立ち位置を鮮明にしました。

A. ビットコインと主要アルトコインの価格動向

リスク資産が総崩れとなる中で、暗号資産市場は顕著な上昇を記録しました。市場の旗艦であるビットコイン(BTC)は1.1%以上上昇し、11万ドルに迫る勢いを見せました 。円建て価格でも、一時15,774,373円(+0.76%)まで上昇しています 。  

時価総額第2位のイーサリアム(ETH)も2%近い上昇を記録し、371,329円で取引されました 。その他、リップル(XRP)やカルダノ(ADA)といった主要なアルトコインも、旺盛な資金流入とセンチメントの改善を背景に2%から4%の上昇を見せました 。  

この日の主役の一人が、ミームコインの代表格であるドージコイン(DOGE)です。個人投資家の熱狂的な支持を背景に6%以上も急騰し、主要暗号資産の中で最も高い上昇率を記録しました 。  

B. 上昇の背景:利下げ期待とマスク氏の発言

この異例の上昇ラリーは、複数の要因が複雑に絡み合って生まれたものです。

第一に、マクロ経済環境の変化が挙げられます。米国当局が一部の関税交渉の期限を延長したことで、差し迫った貿易戦争への懸念がわずかに後退し、他の投資テーマが浮上する余地が生まれました 。より強力な推進力となったのは、地政学的な混乱が結果的に米連邦準備制度理事会(FRB)に利下げを促すのではないかという市場の思惑です。トレーダーは今後発表される消費者物価指数(CPI)などのインフレ関連指標に注目しており、インフレの鈍化が確認されれば、FRBが利下げに踏み切る口実となり、金利を生まない資産である暗号資産にとっては追い風になると期待されています 。  

第二に、暗号資産市場に特有の要因も大きく寄与しました。テスラ社のCEOであり、暗号資産市場で絶大な影響力を持つイーロン・マスク氏が、新たに「アメリカ党」という政党の結成計画を発表し、その中で「法定通貨は絶望的だ(Fiat is hopeless)」と述べ、ビットコインを明確に支持する姿勢を示しました 。この発言は、既存の金融システムへの不信感を抱く投資家層の共感を呼び、ビットコインへの資金流入を促しました。また、同氏がドージコインの熱心な支持者であることも広く知られており、これがドージコインの急騰に直接的な影響を与えたことは間違いありません 。  

第三に、機関投資家による継続的な買いも市場の地合いを支えています。ブロックチェーン・グループのような企業が、バランスシートにビットコインを積み増し続けていることが報じられており 、暗号資産が投機の対象から長期的な価値保存手段へと進化しつつあることを示唆しています。  

C. 分析とインサイト

この日の暗号資産市場の動きは、伝統的なリスク資産との「デカップリング(分離)」が現実のものとなりつつあることを示す、極めて重要な事例です。歴史的に、暗号資産はハイテク株などのリスク資産と高い相関関係にあり、リスク回避ムードが強まれば共に売られる傾向がありました。しかし、この日はその定説が覆されました。

なぜこのような現象が起きたのでしょうか。その答えは、今回市場を襲ったリスクの「性質」にあります。脅威の中心にあるのは、国家、貿易ブロック(BRICS)、そして伝統的な地政学的秩序そのものです。これは、投資家に対して「非主権的な(non-sovereign)」安全資産への逃避という、新たな選択肢を提示しました。つまり、暗号資産は単なるインフレヘッジではなく、国家が発行・管理する法定通貨システムそのものや、関税や金融制裁といった地政学的な武器から資産を守るための「システム的ヘッジ」として機能し始めたのです。

これは金の役割と似ているように見えますが、重要な違いがあります。物理的な金は、米ドル高という金融市場の力学によって価格が直接的に抑制されました。一方で、そのような伝統的な金融の枠組みとの結びつきが薄い暗号資産は、純粋に「安全資産」という物語性だけで上昇することができたのです。

この日の出来事は、暗号資産の歴史における一つの転換点となる可能性があります。市場は、流動性リスクに対する究極の避難先として米ドルを選び、同時に、システム的リスクに対する新たな避難先としてビットコインを選びました。これは、投資家がリスクの種類をより洗練された形で区別し始めている証拠です。永続的なデカップリングを宣言するのは時期尚早かもしれませんが、法定通貨ベースの世界秩序が揺らぐような特定のリスクオフ環境において、暗号資産が独自のパフォーマンスを発揮する可能性を、これ以上なく明確に示した一日であったと言えるでしょう。

V. コモディティ市場:ドル高の重圧に揺れる金価格

伝統的な安全資産の代表格である金(ゴールド)は、地政学リスクの高まりという絶好の追い風が吹く中で、米ドル高という強力な逆風にさらされ、方向感の定まらない難しい一日を過ごしました。

A. 金価格の動向

安全資産への需要が高まる局面であったにもかかわらず、金の価格は下落しました。日本国内の金小売価格は、前営業日比で1グラムあたり47円下落し、16,874円で引けました 。  

国際的なスポット価格(ドル建て)も不安定な動きを見せ、1オンスあたり3,319ドルから3,336ドルの間で取引されました 。この値動きは、それまでの上昇基調から一転して下落に転じたことを意味し、一日の終わりにはマイナス圏で着地しました 。  

B. 強弱材料の綱引き:ドル高 vs. 地政学リスク

この日の金市場は、二つの強力かつ相反する力の綱引き状態にありました。

  • 強気材料(追い風): 激化する地政学的な緊張、貿易戦争への懸念、そしてBRICS諸国への威嚇は、本来であれば投資家を金に向かわせる典型的な要因です 。国際情勢が不安定化する際には、価値の保存手段として金が選好されるのが歴史的なパターンです。さらに、中国人民銀行が6月も金の保有量を増やしたと報告しているように 、各国中央銀行による継続的な買いは、金価格の長期的な下支え要因として機能しています。  
  • 弱気材料(逆風): しかし、これらの追い風を打ち消すほど強力だったのが、米ドルの急騰でした。金は国際的に米ドル建てで取引されるため、ドルが強くなると他の通貨を使用する買い手にとっては割高となり、需要が減退する傾向があります 。この日、ドルが対円、対ユーロで急伸したことが、金価格の最大の重石となりました。  

C. 分析とインサイト

金がドルやビットコインに対してアンダーパフォームした事実は、危機時における安全資産の「序列」を浮き彫りにしています。市場がパニックに陥った際、投資家が優先順位をどのようにつけるかが明確に示されました。

市場が危機に直面したとき、最も優先されるのは「価値の保存」よりも「流動性の確保」です。この観点から各資産を序列化すると、まず究極の流動性を持つ米ドルが頂点に立ちます。次に、物理的な価値保存手段として長い歴史を持つ金が続きます。そして、デジタル時代の非主権的な価値保存資産としてビットコインが台頭してきています。

この日の市場を動かした根本的な要因は、世界的な関税の脅威が引き起こした「流動性への渇望」でした。グローバルな金融システムがドルを中心に構築されている以上、誰もが現金化しやすい米ドルを確保しようと殺到するのは必然です。この結果、ドルが安全資産の序列のトップに躍り出ました。

金価格が下落したのは、このドル高の力学的な影響が、地政学リスクを背景としたテーマ的な買い需要を上回ったためです。金利を生まない資産である金は、その価格評価の基準となる通貨(ドル)自体が急騰している局面では、保有コストが相対的に上昇し、魅力が薄れます。

結論として、この日の値動きは、すべての「リスクオフ」が同じではないことを示しています。グローバルでドル中心の流動性イベントが発生した場合、まずドル自体が買われ、金はそのドルとの逆相関関係によって抑制されます。一方で、この力学的な縛りから自由で、かつ強力な新しい物語を持つ暗号資産は、独自の道を歩むことができました。これは、投資家がリスクの性質をより深く理解し、それに応じて最適な避難先を選択する、より洗練された市場の姿を映し出していると言えるでしょう。

VI. 本日発表の主要経済指標とその他の注目ニュース

7月7日は、トランプ大統領の発言に市場の注目が集中し、経済指標の重要性は相対的に低下しましたが、いくつかの注目すべき発表やニュースがありました。

  • 日本の経済指標:
    • 内閣府が発表した5月の景気動向指数(速報値)は、景気の現状を示す一致指数が115.9となり、ほぼ市場予想通りの結果でした 。しかし、この指標は地政学的なニュースの影に隠れ、市場への影響は限定的でした。  
    • より懸念される内容だったのは、日本の実質賃金に関するデータです。物価変動の影響を除いた実質賃金は前年同月比で2.9%減少し、賃金の伸びが物価上昇に追いついていない実態が改めて示されました 。これは個人消費を圧迫し、日本経済の先行きに影を落とす要因です。  
  • 欧州の経済指標:
    • ユーロ圏の7月のSentix投資家信頼感指数は、市場予想を上回る4.5へと改善しました 。これは、欧州の投資家心理が予想外に底堅いことを示しており、同地域の株式市場が比較的安定していた一因と考えられます。  
    • その他、ドイツの鉱工業生産指数の発表も予定されていました 。  
  • その他の注目ニュース:
    • 企業関連では、米国の食品大手デルモンテが連邦破産法第11章の適用を申請したというニュースが報じられました 。これは、マクロ経済の不透明感の下で個別の企業が直面している経営圧力の厳しさを示す象徴的な出来事です。  
    • 通商摩擦に関連して、インド政府が米国の自動車関税に対して世界貿易機関(WTO)に対抗措置を提示したことも重要な動きです 。これは、主要経済国が米国の圧力に屈するのではなく、報復も辞さない構えでいることを示しており、貿易摩擦がさらに激化する可能性を示唆しています。  
    • こうした緊張の高まりとは別に、ジェトロ(日本貿易振興機構)による投資動向の報告や各種商談会の開催など 、不透明な雲の下でも世界経済が通常業務を遂行しようと努力している様子も伝えられました。  

VII. 総括と今後の注目点

2025年7月7日は、経済学よりも地政学が市場を支配した一日として記憶されるでしょう。米国の通商政策という単一のテーマに対する市場の執着は、予測可能な反応と予測不可能な反応が入り混じる複雑な連鎖を引き起こしました。株式市場は予想通り下落しましたが、その後の安全資産への逃避行動は、新たな序列を明らかにしました。すなわち、米ドルが流動性の王として君臨し、金はそのドルの強さによって抑制され、そして暗号資産がシステム的リスクに対する強力かつ分離されたヘッジ手段として台頭したのです。

今後の市場の方向性を占う上で、以下の点に注目する必要があります。

  • 関税書簡の送付: 今後24時間の最大の注目点は、米国から送付される公式の関税書簡です。日本時間の8日午前に発送されると予告されており 、市場はその内容を固唾をのんで見守っています。どの国がリストに含まれているのか、提示される関税率は何パーセントか、そしてどの品目が対象となるのか。これらの詳細が、次の市場の大きな動きを決定づけます。  
  • 7月9日の交渉期限: EUなど主要な貿易相手国との交渉期限として設定されているこの日は、大きな節目となります 。交渉が合意に至るのか、それとも決裂するのか。その結果は世界経済の先行きに重大な影響を与えるでしょう。  
  • 各国の公式反応: 関税の標的とされた国々がどのような反応を示すかが極めて重要です。インドがすでに対抗措置の構えを見せているように 、各国は米国の要求を受け入れるのか、交渉を続けるのか、あるいは報復措置に出るのか。特にEUと日本の対応が注目されます。  
  • 米国のインフレ指標(CPI): 次に市場が注目する主要経済指標は、米国の消費者物価指数です 。このデータは、FRBによる利下げの可能性を巡る市場の期待を形成する上で決定的な役割を果たします。この利下げ期待の物語は、特に暗号資産のような資産の価格を動かす重要なドライバーとなっています。地政学的な要因が引き起こす市場のストレスと、経済の実態を示すデータとの相互作用が、今後数週間の市場のテーマとなるでしょう。  

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