皆さん、こんにちは。2025年7月12日のマーケット情報をお届けします。昨日の市場は、米国発の新たな関税措置という一つの大きなテーマに揺さぶられる一日となりました。株式市場はリスクオフムードに包まれ、為替市場ではドルが独歩高。一方で、安全資産とされる金やビットコインには資金が流入するなど、資産ごとに全く異なる景色が広がっています。
本日は、この複雑に絡み合った市場の動きを、株式、為替、仮想通貨、そして金の4つの側面から深く読み解き、個人投資家や経営企画に携わる皆様の戦略立案の一助となる情報をお届けしてまいります。
株式市場
米国株式市場は、トランプ政権による新たな関税措置の発表を受け、貿易摩擦の激化と世界経済への先行き不透明感から主要3指数がそろって反落しました。
関税強化が招いたリスクオフの波
7月11日のニューヨーク株式市場は、ダウ工業株30種平均が前日比0.63%安の44,371.51ドル、S&P500種株価指数が0.33%安の6,259.75ポイント、ハイテク株中心のナスダック総合指数も0.22%安の20,585.53ポイントと、主要指数が軒並み下落しました。
この下落の引き金となったのは、トランプ大統領が発表した新たな関税措置です。カナダからの輸入品に対し8月から**35%の関税を課すほか、他の多くの貿易相手国にも15%から20%の包括的な関税を課す計画が示されました()。これは、先日ブラジルに課された
50%**の関税に続く動きであり、市場の不安を増幅させています。
「慣れ」と「警戒」が交錯する投資家心理
市場関係者からは「関税を巡る強硬な発言が、確実に不安レベルを引き上げている」との声が聞かれます()。しかし一方で、過去の同様の局面と比較すると、市場の反応は限定的との見方もあります。あるストラテジストは「市場はこの種のシナリオには慣れており、投資家は状況を見守る姿勢だ」と指摘しています。
これは、投資家心理の複雑さを表しています。度重なる関税の脅威に市場が「慣れ」始めている側面と、企業収益や世界経済への根本的な脅威に対する「警戒」が交錯している状態と言えるでしょう。来週から本格化する第2四半期の決算発表で、関税が企業業績に与える具体的な影響が明らかになるのを、市場は固唾をのんで見守っています。
🚀Insight 分断される市場と新たな勝者 市場全体が下落する中でも、活路を見出すセクターが存在します。AIのリーダーであるエヌビディア(NVDA)の株価は0.5%上昇し、時価総額は4.02兆ドルに達しました()。また、米国防総省がドローン増産を指示したことを受け、エアロバイロメント(AVAV)などのドローン関連企業の株価は**11%
も急騰しています。これは、地政学リスクから距離を置ける、あるいはむしろ恩恵を受けると見なされる特定の技術分野へ、資本が積極的に移動していることを示しています。関税は世界経済の成長見通し(世界銀行は2025年を
2.3%**に下方修正)に冷や水を浴びせる一方で、市場のボラティリティを高め、大手銀行のトレーディング収益を押し上げるなど、経済の各所で分断と新たな力学を生み出しているのです。
為替市場
米国発の関税強化が国内のインフレ懸念を再燃させ、米金利の「より高く、より長く」続くとの観測からドルが全面高となり、ドル円は一時147円台半ばまで上昇しました。
ドル円、147円台突破の背景
外国為替市場では、ドルが主要通貨に対して上昇し、ドル円は一時1ドル=147.49円まで値を上げる場面がありました。このドル高の背景には、明確な連鎖反応があります。
まず、米国の関税強化は輸入品の価格を押し上げ、米国内のインフレを加速させる要因となります()。このインフレリスクの高まりが、米連邦準備理事会(FRB)が金融引き締め姿勢を長く維持する、いわゆる「Higher for Longer」シナリオへの市場の確信を強めています。この金利先高観が、投資家にとってドルの魅力を高め、特に対照的に金融緩和を続ける日本円に対して、ドル買いを誘う構図となっています。
円安を加速させる複合的要因
ドル高に加え、円独自の弱さも円安を加速させています。市場では、日本銀行による追加利上げへの期待が後退しているほか、週末に控える参院選の政治的な不透明感も円売りの材料とされています()。
今後の焦点は、来週発表される米国の経済指標、特に15日の消費者物価指数(CPI)と17日の小売売上高です。これらの数字が市場予想を上回れば、ドル高の流れがさらに強まる可能性があります。一方で、予想を下回る弱い数字が出れば、円にとっては一息つくきっかけとなるかもしれません()。市場では、来週のドル円の予想レンジを
144.50円~149.00円と見る向きもあります。
🚀Insight 保護主義が揺るがすドルの基軸通貨体制 短期的には金利差を背景にドルが強さを見せていますが、その根底にある保護主義的な政策は、ドルの基軸通貨としての地位を長期的に揺るがしかねないパラドックスをはらんでいます。貿易摩擦や経済の不確実性を高めることで()、米国は意図せずして各国にドル以外の選択肢を探させ、外貨準備の多様化を促しているのです。この動きは、後述する金市場における中央銀行の活発な買いに最も顕著に表れています。現在のドル高は、戦術的な金利差主導の現象であり、その裏では世界の基軸通貨としてのドルの地位に対する戦略的な挑戦が静かに進行していると言えるでしょう。
仮想通貨市場
ビットコインは、旺盛な機関投資家の資金流入とマクロ経済的なヘッジ資産としての認識の高まりを背景に、史上最高値を更新し11万8,000ドルを突破しました。
史上最高値更新の原動力
仮想通貨市場では、ビットコイン(BTC)が力強い上昇を見せ、一時118,310.65ドルの史上最高値を記録しました。このラリーを牽引しているのは、個人投資家の投機熱だけではありません。むしろ、機関投資家による本格的な参入という構造的な変化が背景にあります。
特に、米国で承認された現物型ビットコインETFには記録的な資金が流入しており、最近では1日で12億ドルもの資金が純増した日もありました。これに加え、企業がバランスシートにビットコインを組み入れる動きや、米国政府が戦略的な備蓄としてビットコインを保有する可能性への期待も、価格を押し上げる要因となっています。
専門家は「20万ドル」の到達を予測
資産運用会社ビットワイズ(Bitwise)の最高投資責任者(CIO)であるマット・ホーガン氏は、ビットコインが2025年中に20万ドルを超えるとの強気な見通しを堅持しています。同氏は「BTCに対する機関投資家の需要はあまりに大きく、価格が長く横ばいでいることは考えられない」と断言しています()。スタンダードチャータード銀行などのアナリストも同様に、旺盛なETFへの資金流入を根拠に、強気の見方を示しています。
この専門家たちの楽観論は、シンプルな需給バランスに基づいています。ビットコインの新規供給量は半減期によって厳格に定められている一方で、潤沢な資金を持つ機関投資家からの需要は急増しています。この供給と需要のアンバランスが、価格への強力な上昇圧力となっているのです。
🚀Insight 「デジタルゴールド」としての資産性の確立 今回注目すべきは、ビットコインの上昇が、伝統的な安全資産である金(ゴールド)の急騰と歩調を合わせ、米国の関税政策という全く同じマクロ経済的な要因によって引き起こされている点です。これは、ビットコインが孤立した投機対象から、成熟したマクロ資産、いわば「デジタルゴールド」へと進化を遂げつつあることを示唆しています。投資家は、国家の枠組みに縛られない価値の保存手段として、また法定通貨の価値毀損や伝統的な金融システムへの不安に対するヘッジとして、ビットコインを活用し始めています。イーサリアムなどの他の仮想通貨と比較してビットコインが突出して上昇していることも、これが単なる仮想通貨ブームではなく、「デジタルな安全」への逃避であることを物語っています。
金価格
地政学リスクの高まりと米国債市場への懸念から安全資産への逃避需要が加速し、金価格は1オンス=3,350ドル台へと急騰しました。
究極の安全資産への回帰
コモディティ市場では、金の価格が急騰し、一時1オンス=3,353ドルを付けました(Fortune, 2025/07/11)。この動きは、地政学的な緊張の高まりと経済の先行き不透明感から、投資家が資金を安全な場所へ移す「質への逃避」の典型例です。
直接的な要因は、米国の関税攻勢によって煽られる地政学リスクの高まりです()。さらに、市場では「米国債市場の安定性に対する懸念」も浮上しており、これまで最も安全とされてきた米国債から、究極の安全資産である金へと資金がシフトする動きが観測されています。
中央銀行の買いが支える構造的な強気相場
この金価格の上昇は、短期的なセンチメントだけによるものではありません。JPモルガンは、2025年第4四半期までに金の平均価格が3,675ドル、2026年半ばには4,000ドルに達する可能性があるとの極めて強気な予測を発表しています。
この予測の根底にあるのは、世界の中央銀行による大規模かつ継続的な金購入という構造的なトレンドです。2025年だけで、世界の中央銀行は合計で900トンもの金を購入すると予測されています()。この動きは、米ドルや米国債への過度な依存から脱却し、自国の資産を多様化しようとする世界的な潮流、いわゆる「脱ドル化」の表れであり、金価格の強力な下支え要因となっています。
🚀Insight 金とビットコイン、二つの安全資産の共鳴 私たちは今、歴史上初めてとも言える規模で、伝統的な安全資産である「金」と、新しいデジタルな安全資産である「ビットコイン」が、全く同じマクロ経済的な恐怖を原動力として、同時に力強く上昇する光景を目の当たりにしています。これは、投資家の間で「安全資産」の定義が広がりつつあることを示唆しています。金が中央銀行や伝統的な金融機関に選ばれる一方で、ビットコインは新しい世代の投資家や先進的な企業にとって、それと並行する選択肢として台頭しています。両者は競合するというよりも、不確実性を増す世界経済という荒波の中で、金融の救命ボートとして「共鳴」しあっているのです。
まとめ
今日の市場を貫く一つのテーマ:「関税」がもたらした相場の歪み
7月11日の市場動向は、「米国の関税政策」という一つのレンズを通して理解することができます。この単一の要因が、連鎖的でありながらも資産ごとに全く異なる反応を引き起こしました。
- 株式市場では、世界経済の減速と企業収益への懸念から、典型的なリスクオフの動きが加速しました。
- 為替市場では、逆説的にも、短期的なインフレと金利への期待から米ドルに対するリスクオンのセンチメントが生まれました。
- そして、この不確実性と恐怖は、伝統的な安全資産である金と、新しいデジタルな代替資産であるビットコインという2つの安全資産へ資本を向かわせ、力強いラリーを引き起こしました。
現在の市場は、短期的な金利差といったテクニカルな要因が、保護主義的な経済における強い通貨の悪影響といった長期的なファンダメンタルズを一時的に凌駕する、大きな「歪み」の中にいると言えるでしょう。
投資家と経営者への戦略的示唆
投資家の皆様へ: 現在の環境は、伝統的な株式や債券を超えたポートフォリオの多様化の必要性を改めて浮き彫りにしています。金とビットコインの同時上昇は、地政学リスクや法定通貨の不安定性に対するヘッジとして、これらの資産を組み入れる重要性が増していることを示唆しています。
経営者の皆様へ: 最も重要な示唆は、サプライチェーンの強靭化です。最も効率的な単一のグローバルサプライチェーンに依存する時代は終わりを告げました。突然の関税リスクを軽減するため、生産拠点や調達先の多様化が急務となります。地政学リスクの緻密なモニタリングと、為替変動への備えは、もはや選択肢ではなく、この経済分断の新時代における必須の経営戦略です。中国企業が東南アジアへ生産をシフトさせている動きは、この新しい現実の先行指標と言えるでしょう。
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